第十四話

今日は帰り友達と遊び行くからと、先生の所に行かず先に帰った。そんで駅で解散したのが八時過ぎ。やっぱり寄ろうかと思い電話しようとした時、俺は思わず棒立ちになった。

「………ぇ」

帰宅する人がごった返す駅前。道路を挟んだ反対側、見慣れた男が見知らぬ女と歩いていた。
目を惹く長身痩躯に精悍な顔つき。遠くからでもわかった。直江だ。
笑い合い、傍らの綺麗な女の人に親しげに肩を叩かれている。
俺はあまりの衝撃に思考回路が上手く回らなくなった。




「…ちょっと」

そして未だ上手く回らないでいる休み時間。たった今一時間目の数学が終わった後。

「 ちょっとってば!高耶聞いてる?」
「あーだめだめ。話しかけても無駄だぜ」
「は?」
「こいつ今日授業中もずっと上の空なんだよ。魂どっかに落っことしてきたみてーなんだわ。阿呆だから」

二人の声がどこか遠くの方で聞こえる。いつもは言い返せずにいられない千秋のセリフも、今は右から左へ通り抜けていくばかりだ。


昨日の光景が頭から離れない。

あいつ…彼女いたんだ。
そりゃそうだよな。直江もいい歳した大人だもんな。
かっこよくて頭もよくて優しくて落ち着きがあって、あんないい男に彼女がいない方がおかしかったんだ。

よし。放課後問い詰めてからかってやる。
そんで良かったなって…言って…喜んでやりたいのに、なんだこの気持ち。

「…………はぁ」
「今度は落ち込んでる」
「ま、おおかた失恋でもしたんだろ。好きな子に彼氏ができたとか」

千秋の言葉に体がピクッと反応する。
は?失恋?
突然の失恋という二文字に伏せていた顔を上げると、ニヤニヤした千秋と目線が合った。

「違う、失恋なんてしてねぇ」
「男の嫉妬は醜いぞ仰木〜」

この野郎…。無性にイライラする。
なんで直江に彼女ができて俺が嫉妬しなくちゃいけないんだよ。

「こらこら、からかうなよ千秋。高耶怒ってんじゃん」
「まじか」

無意識に直江のことを思う。爽やか笑顔の時もあれば、ガキみたいに笑ったりする。自分だけが見れる特権だと思ってた俺は馬鹿だ。
冷たい指先を握り込む。
あの彼女にも色んな顔を見せてるのかと思うと、ズキリとどこかが痛んだ。
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